愛想笑い教育講座

諸事情によりブログ名変更。23歳Gカップの美女だと思って読んでください

午前6時22分京王井の頭線吉祥寺行き

8月17日金曜日、仕事に行きたくありませんの電話を切った後、ADバンを転がして常磐道を東京方面に向けて走った。向かうは下北沢。夕方より始まる左利きの女の子のライブを見に来たのである。
高速料金往復18,000円、ガソリン代往復10,000円、チケット代1D込み3,000円、コインパーキング代2,400円。
ちょろいちょろい。財布は薄く情には厚い、尻は軽いが腰は重い僕だが、あの娘のためならエンヤコラエンヤコラ。いやいや失敬、あの娘のためじゃなくて自分のためだったわ。付き合っていた時からチケット代がゲストだったことなどないが、文句の一つもないよ僕は。好きなバンドが僕の落とした3,000円でダダリオの弦でも張ってくれれば最高じゃん。僕がライブに行くのは左利きの女の子がいるからではなく、バンドが好きだからだよホント。一番後ろで両手をだらんとたらしながら不動の姿勢で見ていたけど、心の底では浮かれていたし、右足だけは踵をうかせてリズムをトレースしていたよ、最高、らぶ。来てよかったわ。
箱打上げおわったら一緒に飲もうなんてメールを15分悩みながら打って、返ってきたメールに歓喜。24:30にライブハウス前にて座って待つ。来てくれてありがと、って、ニッとわらう。来てよかったわ。24:40鳥貴族。普段僕らは無口のくせに飲んだ時はよく話す。左利きの女の子も、バンドのしがらみのない僕と話す時はきっと楽なのだ。バンドの話はほとんどしないよだって話飽きてるだろうし考えつかれているだろうから。
金麦2つください。
ここしばらく毎日お酒飲んでるしダメダメな生活していたけど、一昨日は飲まなかったよえらい?エライぞえらいぞ。すいませんハイボールください。
一緒に住んでいた彼氏と別れたよ。またかよ忙しいなぁ。すいませんハイボールください。
はやしくんとの付き合い始めは全然好きじゃなかったけど、付き合ってからあんなに好きになったのはあとにもさきにもはやしくんだけ。じゃぁなんで付き合い始めたのよ。バンドマンじゃなかったから。楽しいなぁ、楽しいなぁ。すいませんハイボールください。
ペースの落ちてきたハイボールに浮かぶ四角い氷を指でトントンカラカラもてあそびながら、左手でグラスを握ってニコニコ顔ではなす女の子をみつめてその話をうんうんと聞く。そういえば一度うちにきて一緒にご飯を食べたときに、今日なんか違うの気付く?と聞かれて何も答えられなかったことがあった。結局右手でご飯を食べていたというネタばらしをしてもらったのだけれど、なんだかそれを気付けなかったことに今でも後悔していてる。酔った頭でそんなことをまたしても思い出して、今だったらすぐ気づいて笑いあえるのになぁなんて思ったけれど、目の前の左利きの女の子は最後まで左手にグラスを握っていた。
最近めちゃくちゃ最悪なんだよねとバツの悪そうな笑顔をうかべて切り出した左利きの女の子が何をしゃべりたいかなんてすぐわかる。その顔、知っているぞ。ホントに最悪だなぁ。なんて話す前から笑って、いいよ話せよ、という僕は左利きの女の子が僕がちっとも聞きたくないことを話すであろうことは知っていた。それでも話させたのは、左利きの女の子が僕に対して抱いているはやし相手なら何でも話せるような居心地の良さを失ってほしくないからだし、永遠ではない僕らの関係の中で僕が今少しだけ我慢すればもう少しだけ笑ってくれることを知っていたから。左利きの女の子はバイト先の店長にちょっかいをかけてバイトの勤務に便宜を図ってもらっていることやマッチングアプリでであった最初の男とセフレになっていることや今夢中になっている男が近所の居酒屋の社員だから週5で一人で飲みに行っているという話を始めた。自分に興味がない人が好きなだけだろ、どうせ向こうが振り向いたら冷めるくせに。と言ったらそうだよねと笑った。相手はばついちで二人の子持ちだと告白してきたみたいだけど私バツイチが一番好きですと答えたそうだ。いったいどんな顔して話を聞けばいいのかわかんなかったけどとりあえず笑顔が剥がれ落ちないように一生懸命はりつけながらホント最低だなといった。左利きの女の子はそれをきいてなんだか笑っていたから正解。今日の僕は聞き上手。でもね、人の気持ちを考えているのかどうかはわからないけど、自分の気持ちに正直に愚直に生きているところはやっぱり好きだなぁ、変わんねぇな。
すいませーん、ハイボール濃いめください。
幸せにならなくてもいいけど、不幸じゃないならそれでいいよ、とりあえず心と体は健康でいてよというと、それって一番幸せじゃんと言いながらアメスピに火をつけていた。キャスターからアメスピに変えたのはずいぶん前の話だし、僕も知っていたけれど、キャスターの匂いがしてしまったら僕はちょろいから溺れていたろうね。あぶねー。いや、もうておくれ?
おそらくこれから先僕が左利きの女の子の未来にかかわることで、不幸にすることも不幸から引きずり上げることもできるだろうけど、僕という存在が左利きの女の子の慢性的幸せの要因になることはないんだろうなと考えたらすごく悲しくなった。君の未来に僕はいない。
そしてこんな泥沼から抜け出せたらどんなに楽だろうとも思う。でもね、好きだから引きずってるんじゃなくて、引きずってる自分が好きだから好きなんだよって色々な人から何回も言われたけれど、だからなんだよそれがわかってどうしろっていうの?
鳥貴族が閉店時間だというのではやしーもう一軒いこーの声に勢いよく同調して、会計をすませる。余裕余裕、お金余っているからなんていうと、ハッピー便利おじさんだねと言われて体中が溶け出すくらい笑った。
何時だったかは覚えてないけれど外はもう明るくなり始めていた。次のお店は徒歩2分のところにある座れる立ち飲み屋。とかいってカウンター前には椅子がならんで立つスペースがないんだけれども。そのお店は左利きの女の子にとっては馴染みのある店だから、店長のサトウさんといくらかはなす。トリスハイボールとポテトサラダください。実はさ、今日8時半に集合してキャンプにいくんだよねって言われてまた笑う。絶対寝過ごすじゃんちゃんといくよいや寝過ごすじゃんを繰り返す。家に寝袋取りに行かなきゃといいながら左利きの女の子は2杯目のラムハイボールを8分残してカウンターに突っ伏してしまった。こうなるともう起きないよねとサトウさんは困った顔をしたが、僕は起こし方知っていますという。時刻は朝6時7分。肩をゆすってもだめ、無理やり立たせてもまた座る。こういうときは〇〇に遅刻するよと言ってやるとよいのは知っているんだぞ。6時半だよ~キャンプ遅れるよ~と言ってやる。したっけ、いっぱつでおきた。ちょろいもの同士だな。会計は1,900円。ハッピー便利おじさんには痛くもかゆくもないよ。
下北沢駅まで明るいね~朝だね~なんて二人で歩く。こんな時に手なんて繋げたらこの世がひっくり返ってもいいなと思ったけれど、やっぱりやめた。それなのにバイバイまたねでハグして、キャップを後ろ向きにかぶりなおさせ、キスした。ばかだな、僕。左利きの女の子は僕を見てニッと笑った。世界は泰然自若と在り続けて改札はピーンポーンとなっている。なぁんだ本当にひっくり返ればいいのに世界。でもまぁ今日この時までに目の前に広がっていた小さい世界はそれなり、いや一番幸せだったよな。
手を振った後に改札を超えてユラユラと漂う足取りと後姿に、ほんとに宇宙のような女の子だなと思った。結局左利きの女の子は振り帰ることなく、午前6時22分京王井の頭線吉祥寺行きが僕の恋を連れ去った。
帰り道に落とした僕の握りこぶしサイズのゲロに恋心も含まれていたらだいぶ軽くなるかね、と思ったけど依然酒にも恋にも酔ったまんまで足取りは重かったよ。いったい何に酔ってんだか。
※ゲボは自販機で買ったい・ろ・は・すで、このまま僕の恋心も流し(中略)流しました。