愛想笑い教育講座

諸事情によりブログ名変更。23歳Gカップの美女だと思って読んでください

パスカルとセロトニン

「今の幸せを手放すのが怖い」

 

助手席に座った友人はぽつりと呟いた。
どうやら薬が効いているらしい。
そしてこうも言った。

 

「今日は空が青くてきれいだな」

 

まずい、薬が効きすぎている。



彼は二児の父で、外では営業マンとして働いている。
長身で中肉の彼が背広なんぞを着込めば、表向きにはやり手の営業マンだろう。
実際、彼の仕事の風景を見ていると端々でそう感じることがある。
だがしかし、どうやらその背広っちゅうもんは同時に社会性そのものであるらしく、
ひとたび脱いでしまえば、その実パクチーのような癖の強さで、食えない人も多いだろう。
まぁでも人間誰しもそういうところがあるだろう。
ウルトラマンがウルトラでいられるのは、ウルトラマンスーツを着ているたった3分だけなのだ。

 

余談だが、僕は昔行った風俗で、「ウルトラマンみたい。3分で出たよ。」とケラケラ笑われたことがある。
人を笑顔にさせることって素敵だなーとイった後特有の、凪ぎた脳内で思考していたことを覚えている。

 

さて、そういうわけだから、パワースーツを脱いだ彼は大分ストレスでやられていたようで、心療内科通いを始めた。
セロトニンが出る薬』を処方してもらった後の彼は言葉少なであったし、大層穏やかで我々に優しく微笑みかけた。
しかし我々はそれを恐れた。
『悪魔の子』とも称された彼が他人に優しく微笑みかけるなど、あってはならないことなのだ。

 

「今の幸せを手放すのが怖い」
に対し、僕は
「怖いよ。本当に怖い」
と返したが、勘違いスンナ、同調ではない。
僕(ら)はお前を恐れている。
ヒメアノ~ルでも言っていたが、人間はどれだけ幸せでも小さな不幸せを探して生きていくものなんだ。
だからみんなどこかで不幸せなもんで、無自覚に幸せでいられるのは思考が足りないんだ!!
思考が取り柄のお前が!優しそうな眼をスンナ!

 

一緒に旅行に行ったときに、川べりで僕にションベンかけてきたあの時の、
一緒にキャンプに行ったときに、彼の子供の面倒を見ていた僕に対して「ありがとう、のどが渇いただろう」とお茶のペットボトルに入れたションベンを飲ませた時の、
一緒に美幌に行ったときに、友達の家のリビングでションベンしていた時の、
ウチの台所でションベンしていた時の、
元カノの家の押し入れでションベンしていた時の、
友達の実家の車をションベン洗車していた時の、
あの濁った汚い眼はどこいっちまったんだよ。
お前が空の青さを語らないでくれ。

 

どうやらセロトニンの出方が壊れていたらしいんだ。
躁鬱みたいなもんで、一般人と比べてセロトニン分泌の波の振幅が大きいようだった。
ションベンしているときにセロトニンを出し切った彼は、私生活の小さな喜びに分泌できるだけのセロトニンを残せないのだ。
これを薬で補うことで、身体に正しい分泌方法を覚えさせようって治療法らしい。

 

薬で思考が鈍くなった彼はそう教えてくれた。

 

「例えば、」

 

と続ける。

 

「例えば、これを投薬し続けるだろ。若しくはオーバードーズだよ。俺、思考が止まっちゃうと思うんだけど、どうなんの?」



「弱い一本の葦になるよ。」