2017年12月執筆
身内も知り合いも、知り合いの伝手も、何もかもがない北海道に引越してきたのは2009年3月、大学進学を機にしてのことだった。
受験で来て以来、1か月ぶりの雪景色と、吐く息の白さに心躍らせながら、もう溶けかけているシャリシャリの雪の上を、札幌駅から北へ歩いた。
おぼろげな記憶を頼りに、契約していたアパートについた僕は、がらんどうの部屋に少々の荷物を広げごろんと寝転がってみた。
何しろリュックと手提げだけで来ていたために、翌日の引っ越し屋さんが来るまでは、せいぜい生きることくらいしかない。
あ、爪が伸びている。
そう気づいたときには、爪切りをどこに買いに行けばいいかもわからず、また桑園のイオンまで歩いた。
あれから約9年、僕はあのイオンには1度も行っていない。
夜になった。さて、テレビもない、携帯もパケ代を増やしたくないし、本も漫画も、ない。
カーテンはない。暖房は明日までつながらない。ご飯屋さんはわからない。コンビニもわからない。
ないないづくし。
寒かった。ほんとに寒かった。僕の気持ちは孤独とときめきで忙しかった。
もってきた寝袋に入って、友人からもらった電気ポットにお湯を沸かし、雪で待ち明かりが反射し、内地よりずいぶん明るい夜を見ながらお湯を飲んだ。
ばかだなぁ。と思う。
東西南北、どこに歩いても、5分歩けば何かあったかいものが食べれたし暇も潰せた。
でもね、ホロコーストではないけど、知識って時には罪だよね。
知らない分おそらく一生味わえない気持ちを味わえた。
部活の先輩に教わっていろんなご飯屋さんを覚えた。
働くようになって高めの寝具を買った。
寒い日にはココアを飲むようになった。
4年生になって彼女が出来て、いつ家に来てもいいようにと、初めて暖房をつけて生活するようになった。
それからすぐフラれたけどね。
それからすぐフラれたけどね。
外だってなかなか見なくなった。
だんだん変わっていくけど、あの時の新鮮な気持ちは冬が来るたびに思い出すな。